花吹雪
きつね山んば
天狗らも
月のさかずき
唄いめぐらせ
(2020.3.26 Twitter より)
(2023.6.7 推敲加筆)
花吹雪
きつね山んば
天狗らも
月のさかずき
唄いめぐらせ
(2020.3.26 Twitter より)
(2023.6.7 推敲加筆)
https://japanmystery.com/fukusima/mojisuri.html
日本伝承大鑑 福島「文知摺石」リンク。
福島市に伝わる鏡石伝承。
村長の娘・寅女と都から赴任した源融との悲恋。
鏡石を麦の穂でこすると
遠く離れた人の面影が映るという。
松尾芭蕉「奥の細道」に記載あり。
トオルとトラ、
遥か異国のトール神やトーラーにまで飛躍は無理でも、
巨石に宿る女神信仰の気配あり。
河原左大臣(源融)
小倉百人一首(14番)
『古今集』恋四・724
陸奥(みちのく)の
しのぶもぢずり
誰(たれ)ゆゑに
乱れそめにし
われならなくに
(2020.5.9 Twitter より)
小倉百人一首 光孝天皇(15番)
『古今集』春・21
君がため
春の野に出でて
若菜摘む
わが衣手に
雪は降りつつ
若菜を届ける相手は、もちろん
シノブくんだね……
(2020.3.22 Twitterより)
ようやくゆれがおさまり、シノブくんは、かぶっていた鍋を頭からおろした。
戸棚の位置が大きくずれて、床いちめんにこわれた食器が散らばる「くりや」から、わたし達はいそいで外へ出た。
時々ゆらゆらと地面が波打つように動くが、オモカゲ山の深緑の木々は、いつもとかわらぬ姿でそこにあった。
「よかった……やしろも鳥居もこわれずにいてくれた」
シノブくんがあたりを見回して、ホッとため息をもらした。
「シノブの宮」のあけ放った引き戸の向こう、さっき板の間にかざったばかりの、陶の器がひっくり返って割れていた。水がこぼれて木の床をぬらし、ススキと青ユズの枝が無残に乱れ、たおれている。
思わずそちらに足を向けると、シノブくんが首を横にふった。
「まだ建て物には入らないほうがいい、また大きなゆれがくるかもしれないから」
やしろ手前のちいさな広場から、シノブくんとわたしは、ふもとのオモカゲ街が夕やみにつつまれ始めるのを、たたずんで見おろした。
「街にあかりが灯らないな」
シノブくんが、まゆをひそめた。
「さっきの地震で、停電がおきたのかもしれない」
いつもなら、ここオモカゲ山の西の峰にある「シノブの宮」からながめると、夕ぐれのオモカゲ街にぽつぽつと、灯が浮かびはじめる頃なのだった。やがて宵闇の底、クモの巣にやどるしずくのように、無数の金色の光がやさしい渦をえがくはずなのに……
ひたひたと、まっくらな夕やみがせまってくる。
「オモカゲ山ばかりでなく、オモカゲ街もゆれたんだな……ひさしぶりにアイツがあばれたのだろうか」
シノブくんが、つぶやいた。
アイツ……
ふと、さっき草むらに消えていった、あのちいさなムカデの、黒光りする胴体と数えきれない赤い足とを思い出した。いつか黒沼のほとりで追われた、あの大ムカデの姿がまぶたに浮かび、わたしは身をふるわせた。
アイツ……?
ガサリ、と足もとの草が鳴った。
「きゃっ」
悲鳴をあげ飛びすさると、両腕でかかえられるほどの影が、すいと飛び出してきた。
「シノブさん、たすけてください」
「え?」
わたしは身をこわばらせたまま、足もとに目をこらした。
夕やみに、きらりとまたたく緑の瞳……
「びっくりさせてごめんなさい」
やわらかな声色で申し訳なさそうにあやまったのは、ふわふわしたシッポのネコだった。
「なんだ、タマじゃないか」
シノブくんが、声をかけた。
「どうしたの、そんなにあわてて」
「シノブさん。サヨさんが……ケガを」
ネコは、金色の毛並みをふるわせ、緑の瞳をみひらいた。
「なんだって。さっきの地震で?」
「はい。タンスに足をはさまれて……動けなくて」
ミャウ、ミャウ、ミャウ。
うったえるようなタマの声に、シノブくんが、さっと身をひるがえした。
「わかった、すぐ行く。懐中電灯、それに薬と包帯をとってくるよ」
やしろから戻ってきたシノブくんは、小さな包みをわたしにあずけた。
「これを持ってついて来てくれるかな、イスルギさん」
もちろん……わたしは大きくうなずいた。
あわい金茶の影が、案内するように先にたち、しなやかに石段をおりていく。
「はやく、はやく。シノブさん」
シノブくんとわたしが後について、オモカゲ山の夜道をくだる。
「たしか山すその、井戸のある古い家だったかな」
シノブくんが、首をひねる。
「そうですよ……古い井戸がありますよ」
タマがふりかえって、こちらを見上げ、待っている。
「はやく、はやく。シノブさん」
「わかった、わかった、タマ……ほんとに今夜は暗いなあ」
シノブくんが、オモカゲ街を見おろしてつぶやく。
「こんなに暗い。電気が止まって、街の人たちは大丈夫かな?電気だけでなく、水道も止まってないだろうか」
シノブくんの、心配そうな横顔。
わたしは目を移して、夜空を見上げた。
街のあかりが消えた分、今夜の月は、とてもきれいだ。
十五夜お月さん、まんまるの月……
山の鳥やケモノ達は、どうしているだろう?やっぱり地震におどろき、まだおびえているのか。それとも、もう巣穴やこずえで、身を休ませているだろうか。
ブログ「こちら、ドワーフ・プラネット」( 2015/6/2 )より
ススキの穂が、夕空におじぎをしている。
ふさふさした銀の穂波は、わたしのシッポにすこしにている。
「今夜のお月見にかざるから」
そうシノブくんにたのまれて、わたしは、「シノブの宮」のうらての草むらまで、おいしげるススキの穂をとりにきた。
カミソリのようなススキの葉は、魔をはらう力をもつという。
するどい葉で指を傷つけぬよう気をつけながら、はらりと手におちかかる穂を、いく本かかりとって、たばねた。
赤トンボがついついと目の前をよこぎり、すきとおった風が、手にしたススキの穂をゆらしていく。
「十五夜お月さん……まんまるの月」
夕やけ雲にすいこまれていく、赤トンボ。
うたいながら、トンボのゆくえを目でおいかけた。
今夜、山のお客さんがあつまって作るのは、どんなごちそうだろう。
うきたつ気持ちで、ふと足もとを見ると、ちいさなムカデがはいだしてきた。
黒光りする体のふちで赤い数えきれない足が、すべるように波うつ。
「あっ」
とびのきながら、手にしたススキの束で足もとをはらうと、ちいさなムカデは糸でひかれるように身をくねらせ、草むらに消えていった。
シノブくんのお宮にもどると、井戸水をみたした大きな陶のつぼに、ススキの束をいけた。
ススキの銀の穂といっしょに、先日ユズメさんから頂いたばかりの、まだ青い実をつけたユズの枝もかざった。
ススキと青ユズをいけた器を、戸をあけはなした涼しい板の間に置いて、わたしはホッとひといきついた。
今夜、山のお客さんたちは、「シノブの宮」境内の広場で火をたき、大きな鍋のごちそうをかこんで、宴をもよおすのだという。
十五夜の、月の宴……
たのまれた用事をおえて、「くりや」にようすを見にいくと、シノブくんが、奥の戸棚から、大きな鍋をひっぱりだしているところだった。
「おかえり、イスルギさん」
シノブくんが両手でかかえているのは、洗濯ダライほどもある鉄の深鍋で、長年つかいこんだ風格なのか、まっ黒くすすけていた。
「この鍋、重いよ……」
シノブくんがそういって笑い、わたしも笑いかえそうとしたとき。
ゴォッ、と体の芯にひびく地鳴りがおしよせ、グラリ、とつきあげるように足もとがゆらいだ。
「地震だ、イスルギさん」
くりやの床が大波のようにゆれ、二本足のバランスをとるのがむずかしい。
わたしは、一瞬で白い子ギツネの姿に変じた。
四つ足をふみしめ、なんとか転がらないよう床に立った。が、よろよろする。
はげしいゆれは、おさまりそうもない。
「イスルギさん、ぼくの肩にきて」
指示されるままその肩にとびのると、シノブくんは大きな鉄鍋を両手でささえ、すっぽりと頭にかぶって、うずくまった。
くりやの戸棚からすべりおちた皿や茶わんが、ガンガンと鉄鍋に当たっては、床にこぼれて割れ、白いかけらがあたりに飛び散った。
「大きいな、この地震」
身をかがめ、しっかりと深鍋をささえながら、シノブくんがつぶやいた。
シノブくんの肩の上、わたしはぶ厚い鉄の鍋にまもられていた。
落ちてきた物がぶつかるたび鍋がガツンガツンとふるえるので、わたしはせめても衝撃がやわらぐようにと、シノブくんの頭に自分のシッポをかぶせた。
「ありがとう、イスルギさん」
くらい大鍋の中で、シノブくんがにっこりするのがわかった。
ブログ「こちら、ドワーフ・プラネット」( 2015/7/5 )より