きらきらひかる

ことしのぼたんは
よいぼたん
お耳をからげて 
すっぽんぽん
もひとつおまけに 
すっぽんぽん

げんきよく歌いながら
かけてきたのは、
きんいろの子ぎつねです。
その子ぎつねの耳かざりの
きいろい花がいちりん、
ふわりと風にとばされて
キンポウゲのさく野原に
おちました。

「ここはどこ?」
花の子は、目がさめてびっくり。
もといた野原にはたくさんの
きいろい花のお友だちがいましたが、
今みまわせば知らない花ばかり。
キンポウゲたちは、花の子に
とてもよくにているけれど、
どこかべつの花でした。
花の子は、
いちめんキツネノボタンのさく
野原からきたのです。

「きがついたよ」
「よかったね」
キンポウゲたちがささやきました。
まいごの花の子は、
キンポウゲのやわらかな花びらで、
ふかくねむっていたのです。
あたりは、もう夕ぐれ。
「おきるのを、ずっとまってたよ」
げんきな声がひびきました。

「お客さまがこないんだ、
きみのほかにはだれも」
まいおりてきたのは、
アサギマダラチョウでした。
「もしよかったら、
いっきょく、笛でもいかが?」
「お客さま?笛?」
花の子がくびをかしげると、
アサギマダラは、にっこり。
「なかまのチョウたちは、
夜にはねむってしまうけど、
ぼくは月や星のあかりが
とてもすき」

いちめんのキンポウゲが、
よいの風にふわふわ、
月あかりにきらきら、
ひろい星の原っぱのよう。
ほんのりひかる花びらにすわり、
アサギマダラチョウは
草笛をふきました。
そして、
とおい山や海をこえ、
空たかく風にのって
旅した思い出を
ものがたりました。
花の子は、夜ふけまで
それに耳をかたむけました。

どこから きたの
ふしぎな あなた

きらきら ひかる
なみまを こえて

ほしくずの うみ
たびして きたの

どこから きたの
ふしぎな あなた

きらきら ひかる
よあけを まって

つきかげの みち
たびして きたの

アサギマダラの草笛に、
花の子のすんだ歌声が
かさなってながれると、
もう夜明けです。

さんぽにとおりかかった男の子が、
キンポウゲの野原で、
きらきらひかる花をいちりん
ひろいました。
「わたしはまいご。でも、
ともだちのふく草笛が、
はるかなせかいの歌を
おしえてくれました」
花は、まほうのような声で、
旅するチョウのことを歌いました。
そして歌いおわると、
男の子の手のなかで、
花のあわいひかりはきえました。

朝日のかがやく空を、
アサギマダラがひらりと
まいとんでいきました。
男の子は、野原でひろった
キツネノボタンを、
花の波にほうりなげることは
どうしてもできず、そっと
ポケットにしまいました。

そして?

ひろわれたキツネノボタンは、
男の子のへやで、
押し花のしおりになりました。
昆虫図鑑のチョウチョのページに、
たいせつにはさまれています。
もちろん、
アサギマダラのページですよ。

あの花の子のふしぎな歌声は、
アサギマダラのはねにのり、
山や海をこえ、いまも
とおく旅しているはずです、
きっと。


(2021.3.10 Twitter より 2021.5.5 & 2022.6.21 推敲)

( song by NEUTRINO : Merrow 2022 ©fairy-scope )



ポランの広場

ポランの広場
宮澤賢治 作詞・編曲
(原曲 George Evans)


つめくさの花の 咲く晩に
ポランの広場の 夏まつり
ポランの広場の 夏のまつり
酒を呑まずに  水を呑む
そんなやつらが でかけて来ると
ポランの広場も 朝になる
ポランの広場も 白ぱっくれる。

つめくさの花の かほる夜は
ポランの広場の 夏まつり
ポランの広場の 夏のまつり
酒くせのわるい 山猫が
黄いろのシャツで出かけてくると
ポランの広場に 雨がふる
ポランの広場に 雨が落ちる。



(使用音源)
MIDI : 音楽研究所 様よりお借りしました。
    http://www.mu-tech.org/Traditional/In…
効果音 : 効果音ラボ 様よりお借りしました。
    https://soundeffect-lab.info/

VOCALOID : Ken
illust & music 編集:fairy-scope

2022 ©fairy-scope.com


緑のお池

a homage to Arthur Rackham “UNDINE 1909”


緑のお池が ありまして
緑のお目々の男の子
銀の髪さらさら その上に
お皿が一枚 のってます。

緑のお池が ありまして
赤いおくつの女の子
お魚のぞいた そのはずみ
緑の水に おちました。

緑のお目々の男の子
すいすい泳いで 池のそこ
おぼれた女の子を ひっぱって
緑の草へと はこびます。

緑のお池が ありまして
岸辺でめざめた女の子
銀の髪さらさら 見たような?
赤いおくつが ありません。

きっと おくつは池のそこ
今ごろお魚の家の屋根
それとも だれかの宝物・・・



( 2010.8.1 旧ブログより )

こちら、ドワーフ・プラネット (the-wings-at-dark-dawn.com)

緑のお池(Bing Image Creator) – ぶるーまーぶる (fairy-scope.com)


狼森の火

すきとほつたばら色の火がどん/\燃えてゐて、狼(オイノ)が九疋(くひき)、くる/\/\、火のまはりを踊つてかけ歩いてゐるのでした。
 だん/\近くへ行つてみると居なくなつた子供らは四人共、その火に向いて焼いた栗や初茸(はつたけ)などをたべてゐました。
狼はみんな歌を歌つて、夏のまはり燈籠のやうに、火のまはりを走つてゐました。
「狼森のまんなかで、
火はどろ/\ぱち/\
火はどろ/\ぱち/\、
栗はころ/\ぱち/\、
栗はころ/\ぱち/\。」

宮沢賢治 狼森と笊森、盗森 (aozora.gr.jp) より


子ども達の神隠しの情景が、
影絵のように浮かんでくる。
平易な短い言葉だけで、
魔法のように描いた
郷土の香り豊かな世界。

言葉だけで十二分に美しい一方、
この童話の絵本やアニメーションを
観てみたい……
(そしてカッとなって、描いた)


( 2022.1.7 Twitter より )


狐こんこん白狐

堅雪かんこ、凍み雪しんこ。

宮沢賢治の童話「雪渡り」で、
狐の幻燈会に招待された
四郎とかん子は、
手土産に鏡餅を持って出かける。
田畑や野原に積もった雪が凍り、
十五夜の月がのぼる晩。

鏡開きした餅がある
小正月頃の物語だろうか。

「狐こんこん白狐、お嫁ほしけりゃ、とってやろよ。」
「四郎はしんこ、かん子はかんこ、おらはお嫁はいらないよ。」
「狐こんこん、狐の子、お嫁がいらなきゃ餅やろか。」
「四郎はしんこ、かん子はかんこ、黍の団子をおれやろか。」

宮沢賢治 雪渡り (aozora.gr.jp)


( 2022.1.3~4 Twitter より )