耳なしの
山のくちなし
えてしがな
思ひの色の
下染めにせむ
よみ人しらず
( 古今和歌集 19巻 1026番 [詞書]誹諧歌:題しらず )
耳成山(ミミナシヤマ)の
クチナシという言葉遊びに、
山吹色の染料(クチナシの実)と
秘めた恋心とを織り込んだ歌。
山吹の
花色衣
主や誰
問へど答へず
くちなしにして
素性法師
( 古今和歌集 19巻 1012番 [詞書]誹諧歌:題しらず )
僧がまとう山吹色の法衣の染料は
クチナシの実が素材ゆえの洒落。
古今和歌集/巻十九 – Wikisource
山吹色は僧の法衣のイメージから
俗世を離れたストイック(な恋)の
含意を帯びるようになったのだろうか。
山吹の花はカガミグサ、オモカゲグサ
とも呼ばれ、忍ぶ恋の伝承を持つ。
純白なクチナシの花と甘い香りとが、
浮世を離れた山吹色の印象と結ばれた。
古今和歌集「くちなし(と山吹)」から
多層的で詩的な言葉が共有されたことを
伺い知る。
暮らしに根差した植物の色や香りが、
移ろいゆく花々の風情が、
伝承などに由来する草木の呼び名が、
豊かな語りの時空間を人々に共有させ、
培われたその土壌はやがて、
個人の秘めた内面を重んずる文学性を
和歌にもたらしたのではなかろうか。
オモカゲ草 (the-wings-at-dark-dawn.com)
今か咲くらむ山吹の花 – あかり窓 (memoru-merumo.com)
( 2023.7.3 & 2024.6.17~18 イラスト作成 Bing Image Creator +写真加工 )