秋の田の

秋の田の
仮庵(かりほ)の庵(いほ)の
苫(とま)をあらみ
わが衣手(ころもで)は
露にぬれつつ

天智天皇
(小倉百人一首1番『後撰集』秋中・302)

秋田刈る
仮庵を作り
我が居れば
衣手寒く
露ぞ置きにける

詠み人知らず
(万葉集 巻十・二一七八)

天智天皇は、
大化の改新の
中心人物のひとり。

藤原定家は、
平安時代末期から
鎌倉時代初期にかけての
激動の世を生きた
公家・歌人。

農民の生活の万葉和歌を原案に、
天皇の言葉にかえて百人一首の
巻頭をかざる象徴的な歌とした、
撰者の藤原定家の意図・美意識。
その背景の思想・知識とは……

などと夢想に誘われる。
豊穣儀礼では刈られた穂に神が
宿る。刈る者を生命の支配者と
したイメージ=鎌を持つ死神?

王と穀物神と歌。


Petals and Moon — 英語で百人一首 (petals-and-moon.blogspot.com)

Coarse the rush-mat roof
Sheltering the harvest-hut
Of the autumn rice-field;
And my sleeves are growing wet
With the moisture dripping through.
(Emperor Tenchi)

(1917年出版 Clay MacCauley 版より)

英訳百人一首、新鮮。
1917年=大正6年
まるで時の万華鏡。


小倉百人一首の歌を折々に
思い出すのは、子どもの頃の
カルタ遊びの懐かしさも含め、
選ばれた歌から伝わる情緒に、
時を超えたわかりやすさが
あるからだろう。

恋のテーマが多いけれど、
藤原定家が生きた激動の時代、
栄枯盛衰を経て移ろう刹那に、
人の心を鮮やかに映すのは、
恋慕の歌だったのだろうか?



( 2021.9.17 Twitter より )