おとぎ話

春の羽音をきけば種をまき、
実りをいのって舞いました。
月あかりを杯の水にうかべ、
星の岸辺で機を織りました。

白珠の君の衣を縫うしじま、
わたしの眠りをさますのは
だれ?待ち人が訪れるまで
覚めないはずの夢の途中で。

三日月の船の旅人よ、
闇をわたる波の音よ。
黄金の実を手に持ち、
わたしを呼ぶ幻の人。

夢の庭深くわけいり、
知恵の枝を折りとり、
緑の苗をゆさぶって、
うつつの岸へ運ぶ人。

かえらぬ夜の名残に
あかつきの光を編み、
涙の栞をおとぎ話に
わたしはそっと
しのばせる。


(2020.5.5 Twitter より)


(参照)
オリオン – レモン水 (ginmuru-meru.com)

誰? – ぶるーまーぶる (fairy-scope.com)


きらきらひかる(推敲)

ことしのぼたんは
よいぼたん
お耳をからげて 
すっぽんぽん
もひとつおまけに 
すっぽんぽん

げんきよく歌いながら
かけてきたのは、
きんいろの子ぎつねです。
その子ぎつねの耳かざりの
きいろい花がいちりん、
ふわりと風にとばされて
キンポウゲがさく野原に
おちました。

「ここはどこ?」
花の子は、目がさめてびっくり。
もといた野原にはたくさんの
きいろい花のお友だちがいましたが、
今みまわせば知らない花ばかり。
キンポウゲたちは、花の子に
とてもよくにているけれど、
どこかべつの花でした。
花の子は、
いちめんキツネノボタンのさく
野原からきたのです。

「きがついたよ」
「よかったね」
キンポウゲたちがささやきました。
まいごの花の子は、
キンポウゲのやわらかな花びらで、
ふかくねむっていたのです。
あたりは、もう夕ぐれ。
「おきるのを、ずっとまってたよ」
げんきな声がひびきました。

「お客さまがこないんだ、
きみのほかにはだれも」
まいおりてきたのは、
アサギマダラチョウでした。
「もしよかったら、
いっきょく、笛でもいかが?」
「お客さま?笛?」
花の子がくびをかしげると、
アサギマダラは、にっこり。
「なかまのチョウたちは、
夜にはねむってしまうけど、
ぼくは月や星のあかりが
とてもすき」

いちめんのキンポウゲが、
よいの風にふわふわ、
月あかりにきらきら、
まるで星の原っぱのよう。
ほんのりひかる花びらにすわり、
アサギマダラチョウは
草笛をふきました。
そして、
とおい山や海をこえ、
空たかく風にのって
旅した思い出を
ものがたりました。
花の子は、夜ふけまで
それに耳をかたむけました。

どこから きたの
ふしぎな あなた

きらきら ひかる
なみまを こえて

ほしくずの うみ
たびして きたの

どこから きたの
ふしぎな あなた

きらきら ひかる
よあけを まって

つきかげの みち
たびして きたの

アサギマダラの草笛に、
花の子のすんだ歌声が
かさなってながれると、
もう夜明けです。

さんぽにとおりかかった男の子が、
キンポウゲの野原で、
きらきらひかる花をいちりん
ひろいました。
「わたしはまいご。でも、
ともだちのチョウが、
はるかなせかいの歌を
おしえてくれました」
花は、まほうのような声で、
旅するチョウのことを歌いました。
そして歌いおわると、
男の子の手のなかで、
花のあわいひかりはきえました。

朝日のかがやく空を、
アサギマダラがひらりと
まいとんでいきました。
男の子は、野原でひろった
キツネノボタンを、
花の波にほうりなげることは
どうしてもできず、そっと
ポケットにしまいました。
指でしずかにふれながら。

そして?

ひろわれたキツネノボタンは、
男の子のへやで、
押し花のしおりになりました。
昆虫図鑑のチョウチョのページに、
たいせつにはさまれています。
もちろん、
アサギマダラのページですよ。

あの花の子のふしぎな歌声は、
アサギマダラのはねにのり、
山や海をこえ、いまも
とおく旅しているはずです、
きっと。



(2021.3.10 Twitter より 2021.5.5 推敲)