經毛無 緯毛不定 未通女等之 織黄葉尓 霜莫零
経もなく
緯も定めず
娘子らが
織る黄葉に
霜な降りそね
たてもなく
ぬきもさだめず
をとめらが
おるもみちばに
しもなふりそね
大津皇子(万葉集 第8巻 1512番歌)
天紙風筆画雲鶴
山機霜矜織葉錦
赤雀含書時不至
潜竜勿用未安寝
天紙風筆(てんしふうひつ)
雲鶴(うんかく)を画き
山機霜杼(さんきそうちょ)
葉錦(ようきん)を織る
赤雀(せきじゃく)
書を含んで時に至らず
潜竜(せんりょう)用いることなく
未だ安寝(あんしん)せず
大津皇子(懐風藻 七言 述志 一首)
( 2024.4.18 イラスト作成 Bing Image Creator )
まーふぁのはたおりうた(小野かおる ぶん・え)
「はたおりうた」に関心を持ち、
図書館で検索して見つけた絵本。
落ち着いた柔らかな色調が美しい。
静かに語りかけるような文体の、
アジアの昔話風の創作絵本。
(原話についての紹介がないので、
著者オリジナルの物語だろうか)
織り姫と彦星とを思わせるふたり、
おだやかな幸せを奪う隣国との戦、
心を込めた機織りを邪魔する大臣。
悲しみをこえ天上で結ばれる恋人、
残された美しい麻織物の技と歌声。
ほそーく ほそーく
あさ糸 つむいで
月のひかりを おりこんで
星のひかりを おりこんで
ながーく ながーく
二 四の 糸には 月のひかりを
三 五の 糸には 星のひかりを
ながれる星は 六から一に
月の光のような優しい余韻が残る歌。
いくどか読み直しても余韻は消えない。
作者はすでに他界されているけれど、
「ねずみおことわり」
「はるかぜとぷぅ」
「われたたまご」
など、幼かった頃に読み、
とても好きだった幾冊もの
絵本を思い出した。
他に多数の作品が遺されていると知り、
寂しいけれど、清々しいような
ほっこりと温かい気持ちになった。
まーふぁの布も、きっとそんな肌ざわり
なのだろう。
おかげ山のシノブ君
(あずま市ひなた町には、
おかげ山という里山があり、
そこでは不思議なことが、
ときどき起こるという
風のうわさです)
★ある女の子の話
おかげ山のトンネル、
長い長いトンネル。
出口は遠い。
お腹がいたくて、背中がゾクゾク。
出口は遠い。困ったな……
あ・れ?トンネルの壁、
非常ボタンが光ってる。
この緊急電話、つる草がからんでる。
変な形?
もしもし……あたし、動けないです。
もう、たおれそう……
光っているボタンを押したら、
つる草の電話からやさしい声が。
「待ってて、すぐ行く」
トンネルの壁、大きなわらじが、
プカッと現われた。
大わらじの戸が開き、
元気そうな男の子がひとり、立っていた。
「急患だね。さあ、おいで」
白い着物、わらじを履いた男の子。
あたしは手を引かれ、
大わらじの戸の、向こう側へ……
ぐるぐる迷い道、宵闇の草の道。
お腹のいたみも、背中の寒気も
やわらいできた。
「ぼくの名は、シノブ」
さらさら小川の音。
え?
えーと、あたし……
あたしは誰だっけ?
「はい、明かり」
シノブ君が、ツユクサを一本
もたせてくれた。
葉の先にホタルが一匹、とんできた。
「あまい水の方へ、
道を照らしてくれるよ」
ホ・ホ・ホータルこい……
シノブ君が歌う。
ゆれるツユクサ、
青白いホタルの道案内が、
消えたりともったり。
小川にそって歩くと、
木立ちの奥、古池があった。
「なかんじょ池だよ」
と、シノブ君がいった。
「ショキ、ショキ……
あずきとぎましょか、
ショキ、ショキ」
大きなザルで、
おばあさんが、小豆を洗っていた。
古池のほとり、長い白髪に着物姿。
「おや、この子は具合がわるいのかい?」
おばあさんは、あたしの顔をみると
「にがい水でも飲んだかね?
さ、手をお出し、これをお食べ」
赤い小豆をポロッと一粒、
手のひらにのせてくれた。
おばあさんの小豆は、ほろ苦くてあまい。
ゴクンと飲み込んだら、
お腹がものすごく痛くなった。
うーん、うーん、苦しいよ?
うずくまったあたしの、
のどの奥がムズムズ。
お腹の底から、気持ちわるいモノが、
ヨイショ、コラショ……
たまらずゴホゴホ、せきこんだら
黒い影が、ピョン!
「ほら来た、まかせて!」
シノブ君が、
キラキラ光る水晶の剣をかざした。
サッと影をなぎ払う。
とたんに涼しい風が吹き、
あたしの体はすぅっと軽くなった。
「さぁて、にがい水の小鬼は、
どこかへいっちゃった」
シノブ君がニッコリ、
水晶の剣をふると、
なかんじょ池に雨がふった。
たん、たん、たんたら……
したたり落ちる清水の音。
ホタルの群れが、舞いあがった。
あたしは光の渦に見とれ、
シノブ君は歌った。
ホ・ホ・ホータルこい
あっちのみずは にがいぞ
こっちのみずは あまいぞ
ホ・ホ・ホータルこい
ホ・ホ・やまみちこい
青白い光が、ふわりと
目の前をよぎった。
さっきのツユクサのホタルさん、
また道案内してくれるの?
小川にそって帰り道、
いつしかめぐる迷い道。
ふっとちいさな灯が消えて、
手のひらにヒンヤリ
かたいしずくが、すべり落ちた。
「おかげ山の水晶のかけら、
御守りにあげるよ」
暗闇に、シノブ君の声がひびいた。
気がつくと、トンネルの出口。
夕暮れの歩道、学校からの帰り道……
あたしは、ひとりで立っていた。
さっきまで、シノブ君と歩いていた
「おかげ山」
緑の木立ちが、鎮まっている。
手のひらには、ひとかけらの水晶……
あたしは、くるりとトンネルをふり返り、
山にペコンとおじぎした。
「おかげさまで、元気になりました」
手のひらの水晶が、ポカッと光った。
また、会えるかな……シノブ君?
(※写真は、信夫山で採れた、頂き物の水晶です)
( 2012.7.7 ブログ「こちら、ドワーフ・プラネット」より )
「おかげ山のシノブくん」こちら、ドワーフ・プラネット (the-wings-at-dark-dawn.com)
春の海(Bing Image Creator)
「断夫山古墳」こちら、ドワーフ・プラネット (the-wings-at-dark-dawn.com)
「かつて断夫山は、常日頃の立ち入りが
禁止されていましたが、三月三日だけは
入ることを許されました。
熱田の浜を眼下に見渡せるのは
この時だけでした。」
(名古屋市教育委員会の立て看板より)
名古屋市熱田区にある断夫山古墳は、
ヤマトタケルの妻ミヤズヒメを祀るが、
江戸時代の「尾張名所図会」によれば
三月三日だけ庶民にも解放され、
踏み入ることが許される場所だった。
旧暦三月三日は桃の節句であり、
元は宮中行事だった「ひな祭り」が
江戸時代、庶民にも広まったという。
ひな祭りを検索して思ったのだが、
断夫山古墳への三月三日の入所解禁は、
古代中国より伝来した「上巳」の風習の
名残りだろうか?
(以下、Wikipedia「上巳」より抜粋)
……中国では、漢初より両漢を通して行われた行事であり、『後漢書』礼儀志上には「官民皆な束流の水の上に潔し、洗濯祓除と曰う。宿き垢痰を去りて大潔を為すなり」とあり、官民そろって水辺に出て祓除をする行事であった。
三月上巳に限らず、季節の節に同様の祓除が行われ、この祓除の行事が宮中では洗練され、曲水宴として人工の流水に盃を浮べて酒を飲む宴と変遷した。唐代に至ると、曲水宴は宮中だけでなく上流階級の私宴となり、次第に上巳節は本来の川禊が失われて水辺での春の遊びと変化し、庶民にとっては農事の節日へと展開していった。
春遊踏青という一種のピクニックを行う。杜甫が『麗人行』で「三月三日天気新、長安水辺多麗人。」と述べたように、これは若い男女の恋愛のチャンスであった。また野合が許されることもあった。近代でも『善化縣治』の記載のように絶えてはいなかった。
(抜粋終わり)
上巳 – Wikipedia
宮簀媛 – Wikipedia
ミヤズヒメ伝説の残る断夫山古墳から
眺める、桃の節句の春の海。
桃は中国の西王母信仰とも縁が深く、
西王母は、
織物(絹・蚕)や星(オリオン座)など
多様な要素を含む女神である。
ミヤズヒメは、
川辺で布をさらしているときに
旅するヤマトタケルと出会う。
織り姫である西王母の面影がほのみえる
古代尾張の姫(草薙剣の巫女)かもしれない。
トヨタマヒメ幻想 – ぶるーまーぶる (fairy-scope.com)
( 2023.11.11 イラスト作成 Bing Image Creator )
赤い実(Bing Image Creator)
赤い実もいで
灯りをもらって
知恵がつきますよう
赤い実ひとくち
邪気をはらって
風邪ひきませぬよう
たわわにみのる
ことしの赤い実
どうか おひさまの光が
雪にも北風にも
まけませぬよう
( 2017.1.7 ブログ「こちら、ドワーフ・プラネット」より )
( 2024.2.2 イラスト作成 Bing Image Creator )
赤い実 (fairy-scope.com)