”THE STRANGER” Walter De La Mere(Bing Image Creator)

THE STRANGER
(見知らぬ人)

In the nook of a wood where a pool freshed with dew Glassed,daybreak till evening, blueskyglimpsingthrough Then a star; or a slip of May-moon silver- white, Thridding softly aloof the quiet of night, Was a thicket of flowers.

とある森のかたすみ、そこでは
水晶のつゆを湛えた小さな池が
暁から宵まで、青空をちらちら映し、
やがて一番星が、あるいは
静かな夜天からそそぐ銀の月あかりが
五月の白い花びらのように
そっと水鏡をすべる。そのほとりに
ひとむら茂る野の花々があった。

Willow herb, mint, pale speedwell and rattle Water hemlock and sundew — to the wind’s tittle-tattle They nodded, dreamed, swayed in jocund delight, In beauty and sweetness arrayed, still and bright. By turn scampered rabbit; trotted fox; bee and bird Paused droning, sang shrill, and the fair water stirred. Plashed green frog, or some brisk little flickering fish — Gudgeon, stickleback, minnow — set the ripples a-swish.

ヤナギソウ、ミント、
ほの白いクワガタソウ、
ドクゼリの花の鈴、モウセンゴケ―
風のひそひそ話に、花々はうなずき、
夢み、はしゃいでは揺れた、
美しくかぐわしく咲きそろい、
静かにかがやいて。そのかたわらを、
ウサギがはね回り、キツネが小走りし、
蜂と鳥が羽音を休めては、さえずると
ふと、穏やかな水面にさざ波が立った。
緑のカエルが水しぶきをあげ、
あるいは活きのいい小さな魚影―
コイ、イトヨ、ヒメハヤか何か―が
水輪をつくった。

A lone pool, a pool grass-fringed, crystal-clear: Deep, placid, and cool in the sweet of the year; Edge-parched when the sun to the Dog Days drew near; And with winter’s bleak rime hard asglass, robed in snow, The whole wild-wood sleeping, and nothing a-blow But the wind from the North — bringing snow.

うらさびれた池は、草にふちどられ、
水晶のように澄みわたり、その淵は
かぐわしき季節にもひんやりと静か。
土用の酷暑が近づくと汀は干上がり、
真冬には霜柱がガラスのように硬く
雪におおわれ、荒れた森はすっぽり
眠りにつく、吹くのはただ―
雪を運ぶ北風だけ。

That is all. Save that one long, sweet, June night-tide

すべてはそれっきり、
六月のあの晩の長く甘美な真夜中を
のぞいては。

straying, The harsh hemlock’s pale umbelliferous bloom Tentingnook, dense with fragrance and secret with gloom, In a beaming of moon-colored light faintly raying. On buds orbed with dew phosphorescently playing. Came a Stranger — still-footed, feat-fingered, clear face Unhumanly lovely: . . . and supped in that place.

惑わしき夏至の真夜中、
鬱蒼としたドクゼリの青白い花の傘、
その天幕のすみっこで、みっしりと
香りと暗がりの秘密に包まれ、
月影からひとすじ光が淡く射していた。
つゆに濡れた蕾に、燐光が宿っていた。
と、そこに見知らぬ人がやって来て―
足取りはひそやか、指先は器用で、
きれいな顔は、人とも思えぬ愛らしさ
…そして、そこで一杯やったのさ、
ちょっと一杯、ね。


“DOWN-ADOWN-DERRY” Walter De La Mere 1922 より
( 2025.5.20 拙訳&意訳 by fairy-scope )
( 2025.6.12 イラスト作成 by Copilot-Bing Image Creator )


THE STRANGER – ぶるーまーぶる

セリ科の花傘(オルラヤ) – ぶるーまーぶる


セリ科の花傘(オルラヤ)


セリ科 – Wikipedia

> 特徴的な散形(傘形)花序をつけるので、古くは散形科または傘形科(さんけいか)と呼ばれた。ラテン名の代替名である Umbelliferae も同じ意味である。牧野 (1940) はからかさばな科と訳している。(Wikipediaより引用)

Orlaya grandiflora — Wikipédia

公園に咲いていた白い花。
検索したら、オルラヤという名らしく、
花傘をつけるセリ科の植物とのこと。
デ・ラ・メアの詩に登場する
ドクゼリもその親戚だという。

straying, The harsh hemlock’s pale umbelliferous bloom Tentingnook, dense with fragrance and secret with gloom, In a beaming of moon-colored light faintly raying. On buds orbed with dew phosphorescently playing. Came a Stranger — still-footed, feat-fingered, clear face Unhumanly lovely: . . . and supped in that place.

惑わしき夏至の真夜中、
鬱蒼としたドクゼリの青白い花の傘、
その天幕のすみっこで、みっしりと
香りと暗がりの秘密に包まれ、
月影からひとすじ光が淡く射していた。
つゆに濡れた蕾に、燐光が宿っていた。
と、そこに見知らぬ人がやって来て―
足取りはひそやか、指先は器用で、
きれいな顔は、人とも思えぬ愛らしさ
…そして、そこで一杯やったのさ、
ちょっと一杯、ね。


“DOWN-ADOWN-DERRY” Walter De La Mere 1922 より
( 2025.5.20 拙訳&意訳 by fairy-scope )


鑑賞用のオルラヤよりもワイルドな、
生い茂るドクゼリの青白い花傘。
その花傘を天幕にたとえ、花の隙間から
漏れ来る月光でかすかに照らされた
暗がりに、見知らぬ人が訪れたという
「ただ一晩の甘美な思い出」

見知らぬ人が「ちょっと飲んだ」のは、
あるいは燐光を放つ蕾のつゆだろうか。
見知らぬ人は、ドクゼリの花影に憩う
異界からのちいさな旅人かもしれない。

鬱蒼とした茂みに宿る花影の世界を、
そっと覗き込むような優しい月明り
……詩人の眼差しと語りとに誘われる。


THE STRANGER – ぶるーまーぶる

下降する眼差し – ぶるーまーぶる

”THE STRANGER” Walter De La Mere(Bing Image Creator) – ぶるーまーぶる


水無月、土曜日の夜


「三匹みつけた」
「いや、二匹だろう」
「そうかもしれない」

あなたが見つけた一匹、
わたしが見つけた一匹。

黄緑に明るくともる光。
生い茂るドクダミの
白い花がぼんやり浮かぶ
堀の、真っ暗な草むらを
のぞき込んだ瞬間だけで
今年はもう満ち足りた。

ほ ほ ほたるこい

神社の気配に圧されて、
暗い参道を引き返した。
来年は五月中に探しに行く、
出来れば真夜中の乱舞に会いに。